(日経 2009-07-02)
ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフリー・イメルト会長に、
会う機会があった。
さすがのGEも、世界的な金融危機で、
一時資金繰りがヒヤリとしたことなどを率直に語ってくれたが、
GEの未来戦略で、最も興味を引かれたのは、研究開発の方向転換。
GEの製造業部門は、これまで高付加価値をつける「プレミアム戦略」が
基軸だったが、この方針を修正し、廉価品にも力を入れる。
イメルト会長が、一時直接指揮したことがある
ヘルスケア(医療機器)事業では、「ヘルシーマジネーション」という
新たなイニシアチブを打ち出した。
眼目は、医療サービスへのアクセスの拡大。
先進国では、病院で高度な治療を受けられるのが当たり前だが、
途上国では医療施設が不十分で、簡単に病院にも行けない。
「そんな地域でも使えるような、簡便で廉価な医療機器を開発すれば、
社会の福利が高まる」
そこで開発されたのが、例えば持ち運びできる心電図計測装置。
GEが、中国に持つ研究開発部門が開発し、評判がいいので、
米国など先進国にも展開する。
「これまで高付加価値路線を追求してきた会社が、
急に廉価品にかじを切るのは難しいのでは?
エンジニアは、“安もの”の開発を嫌がらないか」と聞くと、
「だから、違う人にやってもらう」という答え。
中国の研究開発拠点の事例は、その先駆。
これまで高級車を開発していた人に、
「20万円カーをつくれ」といってもできない。
新たな開発拠点を別につくり、そこで開発させる。そんな発想。
このやり方は理にかなったもの。
イノベーション理論の古典になった感のある
クレイトン・クリステンセン著『イノベーションのジレンマ』では、
従来の延長線上にない「破壊的(ディスラプティブ)イノベーション」を
どうやって生み出すか、解決策の一つとして「独立組織」を提案。
既存の研究所や事業部は、従来の技術を否定するような
研究開発には、陰に陽に抵抗がある。
それらとは全く隔離された別組織に、新技術の開発を委ねる。
汎用機全盛時代のIBMのパソコン開発などが、成功事例として引用。
「廉価品対応」というGEの課題は、日本のIT産業や製造業全般にも
共通する課題。
パナソニックの大坪文雄社長は、5月31日付の日本経済新聞で、
「今回の経済危機が収まった後、購買力が高まるのは新興国。
この地域で求められるボリュームゾーンから逃げたのでは、
当社の成長はない」
だが、その地域に適した廉価品をだれが開発するのか?
日本の電機産業は1985年の円高以降、四半世紀にわたって
「高付加価値路線」を唱え続けた。
この路線が成功したとは言いがたいが、「高付加価値化」という方向性が
技術者の発想にすり込まれた。
発想を逆転し、機能をそぎ落とした廉価品を開発するには、
単なる経営者の掛け声だけではなく、新たな組織が必要。
イメルト会長の話からは、そんなメッセージが伝わってきた。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt090701.html
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