2009年7月16日木曜日

脳の働き:潜在的、人の好みを左右 無自覚な認知に違和感も

(毎日 7月7日)

あるタレントの顔が好みなのはなぜか?
コンビニに並ぶ同じ種類の商品の中から、
ひとつを選んで購入するのはどうしてか?

自分では意識的に決めているつもりだが、
そうとばかりは言えないことが最近の研究で分かってきた。
人の好みは自分でも気づかない、脳の潜在的な活動にも
左右されているらしい。
人の脳では、膨大な量の情報が処理されている。
そのほとんどは意識に上らない。

米・カリフォルニア工科大の下條信輔教授(認知神経科学)リーダー、
「戦略的創造研究推進事業・潜在脳機能プロジェクト」は、
こうした無自覚な脳の働きが、意思決定などに結びつく仕組みの
解明に取り組んでいる。

◆見るから好きに?

研究の発端は、顔の好き嫌いの判断と視線の関係を調べる実験。
2枚の顔写真を並べて、好きな方を選んでもらうと、
選ぶ1秒程前から選ばれる方に視線が偏ることがわかった。

「長く見ている方を好きと判断する」と解釈できるが、
「好きだから長く見ているのではないか」との反論も。

下條さんらは、のぞき窓から顔が一部ずつしか見えない条件を作った。
実験の協力者は、一部ずつを見比べながら顔全体をイメージし、
好きな方を選んだが、選ぶ7~8秒前から視線の偏り。
「見比べている間は意思決定していないのに、
視線は片方にすり寄っている」

あらかじめ二つの顔を見せ、15分以上後で好きな方を選んでもらうと、
15分前の段階でその判断を予測できる脳活動が見られた。
自分でも気づかないうちに、第一印象で
好き嫌いが決まる可能性を示している。

◆見慣れた顔が好き

過去に接した記憶は、好き嫌いにどう関係しているのか?
下條さんらは、顔、自然風景、幾何学図形のそれぞれに、
二つから好きな方を選んでもらった。
その際、片方は毎回同じものを見せ、残りは新しいものを見せた。
その結果、顔は「なじみのある方が好き」、
風景は「新しい方が好き」という傾向。
特に、なじみのある顔を好む傾向は、条件を変えても揺るがなかった。

「CM戦略で言えば、見たことのない風景に、
なじみのある人物を配するのが成功の秘訣かも」

◆消費者は自由か

こうした実験で注目されるのは、「なじみのある顔」や
「より長く注視した顔」を選んでいることに、
被験者自身は気づいていない点。
人の好みが、無自覚な認知に左右されているのだとすると、
消費者が商品を選ぶ行動や、選挙で有権者が候補者を選ぶ行為は、
自由意思による決定といえるのだろうか。

「自由意思が働いていないわけではないが、
自由に選んでいると感じながら、広告戦略などに左右される部分が
現代社会では増えている。
その仕組みを、科学的に解明していきたい」

◇停止エスカレーターに乗ると…自然に上半身は前傾姿勢

止まっているエスカレーターを上り下りする時、
奇妙な違和感を経験した人は多い。
この違和感の理由は何か?

潜在脳機能プロジェクトの一員である五味裕章・NTTコミュニケーション
科学基礎研究所主幹研究員らが実験で探った。

実験協力者に、止まっているエスカレーター、動いているエスカレーター、
エスカレーターに似せた木の階段を上ってもらい、
違和感や体の動きを調べた。
木の階段では、違和感があまり感じられず、
見た目が違和感に関係していることが示された。

停止エスカレーターに踏み出すまでの体の動きは、
木の階段に踏み出すまでと同じ。
動いているエスカレーターに乗る前のように、
歩く速度が上がったり体が前傾する傾向はなく、
被験者の脳も体も「停止している」と正しく認識。

停止エスカレーターに乗り込むと、急激に体が前傾。
これは、動いているエスカレーターに乗ったときの動きと同じ。
木の階段では、こうした前傾は見られなかった。
違和感は、上半身の前傾と関係。

五味さんは、「エスカレーターが停止していることは
よくわかっているのに、足を踏み出すと、自動的に
『動いているエスカレーター用のプログラム』が作動してしまうのでは。
自分で、その理由が分からないことが違和感につながっている」

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/07/07/20090707ddm016040089000c.html

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