2009年7月13日月曜日

理系白書’09:挑戦のとき/13 海洋研究開発機構研究員・阿部なつ江さん

(毎日 7月7日)

1月から約2カ月間、海洋地球研究船「みらい」で、
日本から南米チリまで太平洋を斜めに横断。

海底の地形や地球の内部構造を観測する、
研究者約40人を束ねる首席研究者。
洋上観測は悪天候などで、予定変更が日常茶飯事だが、
各研究者の要望を聞いて、
全体計画への影響を最小限にとどめるのが仕事。

初の大役を終え、「研究者や研究支援員、乗組員の協力で、
当初計画の90%以上は達成できた」と満足そう。

阿部さん自身は、地球の体積の8割以上を占める
マントルの主成分である「かんらん岩」を研究。
マントルの最上部は、十数枚の大きな岩板(プレート)となって
地球を覆っており、マントルの対流によってプレートはゆっくり動く。
プレートが別のプレートの下に潜り込んだりすることで、
地殻変動や地震が起こる。

かんらん岩を調べれば、化学組成や含有鉱物の違いで、
プレート誕生時の温度や圧力など地下深くの様子が分かる。
海底は、マントルを覆う地殻の厚さが数キロと薄いため、
かんらん岩が露出している場所がいくつかある。
深海は、地形を知るにも一苦労で、まだほとんど調べられていない。

「深海底は、月より遠い気がする。
でも、未開拓なだけに調査のたびに新発見がある」と阿部さん。
三陸沖で新しいタイプの小さな海底火山を見つけ、06年に発表。
このタイプの火山では、プレートの岩石そのものが採取できる
可能性があり、注目。

6歳上の兄が天文ファン。
影響されて天文学者を志したが、大学受験で数学や物理が難しく、
「自分は天文学には向いていない」と進路を変更。
「地球を研究しよう」と地学科に入学。
指導教官の勧めで手にした、緑色のかんらん岩の美しさに魅せられた。

大学院では、いろいろな産地のかんらん岩を詳細に分析し、
日本で採れたものは、大陸や海底で採れたものと
組成が違うことを突き止めた。
「論文をまとめた後、2日ほど興奮して寝られなかった。
これで研究者としてやっていけそうと自信がついた」

高校時代から英語が大の苦手。
大学では単位を落とし、留年。
「研究を続けるには不可欠」と一念発起。
好きなディズニーアニメの音声だけをカセットテープに録音し、
テープが伸びるまで聞いた。
中学の教科書の音読や書写も繰り返し、
今では国際プロジェクトでも不便は感じない。

人類史上初めて、海底地殻をマントルまで掘り抜く
地球深部探査船「ちきゅう」のプロジェクトにも携わる。
「好きなことを突き詰めれば、いつか道が開ける。
あと10年はかかるだろうが、マントルの岩石を手にしたい」
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◇あべ・なつえ

神奈川県横須賀市出身。97年、金沢大大学院博士課程修了。
東京工業大技官、豪マッコーリー大研究員などを経て、03年から現職。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/07/07/20090707ddm016040094000c.html

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