(日経 7月7日)
深刻な不況の中で始まった2009年も、すでに半分。
今年上半期のビジネス書のベストセラーランキングを、
人事・組織分野の有力コンサルタント3人に解説、
ビジネスパーソンが何に関心を持っているのかを探った。
ランキングに数多く顔を出しているのが、
「読書は1冊のノートにまとめなさい」
(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)に代表される自己啓発本。
マーサージャパンの長谷川直紀さんは、
「雇用情勢の悪化が背景にある」と分析。
会社にとって欠かせない人材になるため、スキルを高めたい。
こうした思いが、ビジネスパーソンに自己啓発本を手に取らせている。
長谷川さんは、「職を失うことへの危機感が強まっている」
自己啓発本を、2つに分けている。
1つが、スキルアップの方法論を解説した「ハウツー本」
2、3時間で読み終えられる手軽さが特徴。
代表格として、「面倒くさがりやのあなたがうまくいく55の法則」
(大和書房)と「8595原式スピード思考力」(幻冬舎)の2冊。
もう1つが、科学的な知見を基盤にしたグループ。
特に目立つのが、「『脳にいいこと』だけをやりなさい!」(三笠書房)、
「脳を活かす生活術」(PHP研究所)など、
脳科学の研究成果を理解したうえで、自己啓発を目指す本。
長谷川さんは、「内容が深く、自分のあり方を考え直すきっかけに」
こうした本のランキング入りは、不況を機にビジネスパーソンが
内省的になっていることを表している。
雇用情勢の悪化は、企業経営を主題にしたビジネス書の売れ筋に影響。
リンクアンドモチベーションの麻野耕司さんは、
「従業員を大事にする企業や経営者を取り上げる本が売れている」
その象徴が、「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版)、
「俺は、中小企業のおやじ」(日本経済新聞出版社)の2冊。
麻野さんは、「このような経営者のもとで働きたいという、
一種のあこがれを投影したものでは」
景気がよい時期には、大企業や有名企業を取り上げた本に
人気が集まる傾向。
ビジネス書のランキングの変化に目を凝らせば、
景気の先行きが見通せる。
会社にしがみつかず、自立しようとする意識も感じられる。
マーサーの長谷川さんは、「史上最強の人生戦略マニュアル」
(きこ書房)を例に、「自分のキャリアを戦略的につくり上げていこう、
というビジネスパーソンが一定数いる」
不況を、前向きに乗り切ろうという覚悟ができつつある、と分析。
◆若手育てる意識、気迫に
「ビジネスパーソンから、部下を育てる余裕が消えつつあるのでは」
レジェンダ・コーポレーションの藤波達雄さん。
今年春、新卒で入社した人たちは、「ゆとり教育世代」と呼ばれ、
コミュニケーション能力や忍耐力、基礎学力に難がある、
といわれることが多い。
「本来なら、彼らを一人前に育てるための本が
ランキングに入っていてもおかしくない」はずだが、
実際には、自己啓発を目的とした本が大半。
成果主義型の人事制度の副作用で、
部下や同僚を手助けする機運が薄れている。
雇用環境悪化が追い打ちをかけ、
「新人を含めた若手社員を、育成する意識が希薄になっている」
◆出版科学研究所の綾部二美代さんの話
昨年秋のリーマン・ショックを境に、ビジネス書の売れ筋は変わった。
外国為替証拠金取引(FX)などの投資を勧める本が上位を占めたが、
今年の上半期は完全に鳴りを潜めた。
代わって、グローバル資本主義や金融危機、米国経済の問題点を
分かりやすく解説しようとする本。
多くの要素が複雑に絡み合っているテーマなので、
多くのビジネスパーソンが真相を知りたい。
自己啓発本も、多くランクインしたことも特徴の1つ。
出版社のマーケティング担当者が売れる本を模索した結果、
学生や主婦なども手に取りやすいノンフィクション的な読み物が、
ビジネス書に分類。
ビジネス書の定義が、拡大しているのかもしれない。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/bizskill/biz090707.html
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