(日経 2009-06-24)
次世代の素材として注目を集める、炭素繊維の需給の
緩和感が強まっている。
メーカー各社が、成長分野と位置づけていた航空機の生産の
遅れが響いている。
工作機械向けやゴルフシャフトなども落ち込んだまま。
需要回復の兆しが見えない中、価格競争の芽も出てきた。
各社は、航空機需要の拡大を前提にした生産計画の見直しを始めている。
「本当に値崩れはないのか」——
5月上旬、東レ本社で開かれた決算説明会の席上。
アナリストからの質問に、榊原定征社長はこわ張った表情を見せた。
同社の2010年3月期は、2期連続で最終赤字を計上する見通し。
炭素繊維が値下がりすれば、赤字幅の拡大は避けられない。
各社の炭素繊維事業は低迷。
大手炭素繊維メーカー3社(東レ、三菱レイヨン、帝人子会社の
東邦テナックス)の09年3月期の炭素繊維事業の売上高合計は、
前の期比15%減の1431億円。
営業利益は、同75%減の90億円。
炭素繊維の用途は、主に工作機械などの産業向け、ゴルフクラブや
釣りざおなどのスポーツ向け、航空機向けの3つ。
成長期待が大きかったのが、航空機向け。
米ボーイングの最新鋭中型機「787」や欧州エアバスの新型機「A380」
への採用が決まり、炭素繊維各社は生産能力を増強。
炭素繊維の使用量が多いのは「787」。
1機あたり約30トンを使う。
6月中旬時点での受注は865機。
生産体制のトラブルやストライキなど、
全日空など航空機会社への納入が遅れている。
「787」への独占供給権を持つ最大手東レの国内の在庫量も膨らみ、
昨春から生産能力に過剰感が出ていた。
昨秋以降の景気後退で、産業向けとスポーツ向けの需要が落ち込み、
需給が急速に緩んだ。
需給引き締めを狙い、各社は3~4割の減産に踏み切ったが、
今のところ効果は限定的。
在庫水準を適正レベルに戻すには、一段の減産拡大か、
拡販を図るしかない。
東レは決算説明会で、シェア拡大をまず意識した「売り抜き戦略」に言及。
冒頭のアナリストの質問は、それを受けてのもの。
「値段を下げろとまでは言っていないが、価格に販売量を掛けた
『面積』で取れと言っている」(榊原社長)
東レは、風力発電機のブレード(羽根)など新規需要への売り込みを強化、
強化プラスチック向けへの本格参入も示唆。
強化プラスチック向けは、これまで東邦テナックスが先行、
価格競争が激化する可能性が高い。
ゴルフや釣りざおに使う「プリプレグ」の汎用品も、弱含んでいる。
「足元では、直近の高値を付けた昨秋から約25%安い」
(大手スポーツメーカー)との声。
今後の需給のカギを握る、6月末予定の「787」の初飛行テスト。
テストの結果が「787」の生産計画を、各社の生産計画を左右する。
ボーイングは、初飛行の延期を発表。
炭素繊維の市場が、成長に向けて離陸できるか否か。
分水嶺を迎えようとしている。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/shikyou/shi090623.html
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