(日経 2009-06-22)
ITを使って電力供給を制御し、CO2排出量削減にも有効、
という次世代送電網「スマートグリッド」。
米国では、GEやIBM、グーグルなどの企業が参入を表明、
開発熱が高まってきた。
日本の電力会社は、どちらかというと冷ややか。
停電が少ない日本の電力会社は、世界的に優等生であるうえ、
スマートグリッドの中身があやふやなのも確かだが、
技術革新の動きにアンテナを高くしておかないと、
“ガラパゴス化”する恐れがある。
「日本の電力技術は、米国のはるか先を行っている」
大手電力の役員は、スマートグリッドにそっけない。
設備の更新もあまりせず、停電が発生しても場所の特定さえ手間取る
米国の電力会社に比べ、日本の電力会社の品質管理は一段高いレベル。
戦後、10電力体制の規制の下、大規模電源の開発と大容量送電網を
セットにした系統整備を、全国規模で進めたことが大きい。
しかし、これからは電力需要の伸びが期待できないうえ、
低炭素化社会への対応で、太陽光や風力など
分散型電源の受け入れを格段に増やす必要。
出力の不安定な太陽光や風力を、より取り込みやすい
スマートグリッド関連の技術開発は、日本の電力会社にとって重要。
世界の電力事情に目を向けると、
日本を上回る速度で、分散型電源が広がっている。
欧米では、大規模な風力発電所の建設ラッシュ。
中東では、砂漠に大規模太陽光発電所を建設する構想が浮上。
注目すべきは、インドなど新興国。
経済成長のスピードに、大規模電源の開発が間に合わないインドでは、
電気が通っていない農村部を中心に、家庭用太陽電池が急速に普及。
ニカラグアなど中南米でも、何年もの「送電待ち」に耐えかねた
農村の顧客が、太陽光発電設備を自費で導入、灌漑用ポンプなど
農業生産にも利用する動きが広がっている。
こうした国でも、いずれ大規模電源の建設が追いついてくる。
原発や火力発電所に、太陽光などの分散型電源を組み入れた
送電網を運用には、ITによる制御技術と関連機器が欠かせない。
米大手が競って、スマートグリッド市場に参入するのは、
世界で需要が急拡大するとの読み。
「発展途上国で、再生可能エネルギーを使った分散型電源が
普及すれば、米国にとって技術輸出の好機」
米電力技術研究所は10年前、すでにこんな指摘。
米国企業は、世界市場攻略を念頭に、スタンダードをつくるのがうまい。
日本勢が手をこまぬいているうちに、GEやIBM、グーグルが
スマートグリッドで業界標準をつくり、電力会社などと組んで
新興国市場に攻めたら、日本企業が食い込む余地はどれほどあるか。
マイクロソフト、インテルの「ウィンテル連合」に、
付加価値の大半を奪われた、パソコンの世界にどこか重なる。
電力会社の技術開発にかける意気込みが、
以前に比べて衰えていないだろうか?
CO2排出量削減に有効な電気自動車(EV)。
電力消費増になり、夜間に充電すれば電力の負荷平準化にもプラス。
電力会社では、推進機運が高まっていると思いきや、「ほどほどでいい」
「あまりにEVが普及すると、ガソリン税収が減り、
代わりに電力に余分な税金がかけられるかもしれない」との心配。
気になるのは、関連メーカーなどと組み、新産業を興そうという
気概が電力会社からあまり伝わってこない。
低炭素社会対応や原油高を背景に、再生可能エネルギーの急拡大や
原発回帰など、世界のエネルギー市場は大きな転換点。
仏電力公社(EDF)が英ブリティッシュ・エナジー、
ベルギーのSPEと欧州の電力会社を相次ぎ買収するなど、
欧州電力の勢力図は急速に塗り替わり、
新興国では分散型電源ベンチャーが次々に登場。
エネルギー市場の変革は、日本の電力会社にとって
ビジネスチャンスが増えていることを意味するうえ、
公益企業として新産業創造の役割を演じる好機。
電力会社の攻めの経営を期待したい。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan090618.html
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