(読売 6月20日)
宇宙飛行士の向井千秋さん(57)、毛利衛さん(61)が
宇宙の魅力を語る。
「宇宙から地球に戻って一番驚いたのは、一枚の紙の重さを
ずっしりと感じたこと。地球には重力がある。
これは不思議なことだなぁって」
1994年と98年、米スペースシャトルで宇宙に向かった向井さん。
2度の宇宙体験を、そう振り返った。
ボールは、坂道の高い方から低い方に転がる。物には重さがある。
すべて地球に重力があるからにほかならない。
重力は、あまりに当たり前の存在だから、
日常生活で気にとめることはない。
「青い色眼鏡をかけると青い鳥が見えないように、
私たちは生まれてからずっと『重力』という色眼鏡を通して、
世界を見ている。
私は無重力環境に放り込まれ、重力の色眼鏡をいやおうなく外された。
重力の存在を強く意識できた。
重力がある地球こそ、『特殊な存在』であることも」
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宇宙では、メダカを使った生物実験や材料実験など、
重要な科学研究に忙殺。
そうした中で、ネジを回そうと思うと自分の体の方が回転したり、
道具を置こうと思ったら、「物を置く」ということが
宇宙にはないことに気付かされたり。
疑問の余地がなかった日常の風景が、特別であると気付く
劇的な体験の連続だった。
「身の回りの世界は、普段は見えなくても、
実はいろんな不思議なことに満ちあふれている。
宇宙を知ることが、そうしたことに気付く『入り口』になる」
「子どものころから、『宇宙』はあこがれでした」。
毛利さんのその原点は、高校1年生の時、
出身地の北海道で見た「皆既日食」にある。
「人間にはどうしようもない大きな力で、宇宙は動いている。
壮大な自然現象を目の当たりにして、不思議な気持ちに包まれた」
もっともっと自然を知りたい。
その強い思いが、科学者へ、そして宇宙飛行士の道へと突き動かした。
92年、日本人で初めてシャトルに搭乗。2000年、再び宇宙へ。
2度の宇宙体験で得たもの。
それは、「地球は、遠く広がる宇宙の一部だという見方。
私たちが生活する地球に対する特別な思い」
それだけではない。
「自分も、宇宙の一部なんだということも感じた」
自分は何者で、宇宙のどこから来たのか?
宇宙の果てには、私たちのような生命体がいるのか?
宇宙に思いを寄せながら、「生命」を持つ自分、
宇宙でたった一人の自分の存在に思いが巡った。
毛利さんにとってあの「原点」がまた、やってくる。
来月22日、46年ぶりに日本で皆既日食が出現。
屋久島や奄美大島など一部だが、部分食なら全国で見られる。
「子どもたちの『理科離れ』は確かにある。
それは、受験のための理科の勉強だから。
本物に触れれば、大きな刺激を受けるはず。
またとない自然現象を自分の目で見て、何かを感じ取ってほしい」
毛利さんは、高1の時に感じた新鮮な感動をそのままに、
屋久島でその日に臨む。
◆むかい・ちあき
慶応大医学部卒。医学博士。
1985年、宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)の
初の宇宙飛行士選抜試験に合格。
2004年9月から3年間、国際宇宙大学客員教授。
07年10月、同機構宇宙医学生物学研究室長。
◆もうり・まもる
北海道大大学院修了。理学博士。
専門は真空材料表面科学と核融合炉壁材料。
向井さんとともに宇宙飛行士選抜試験に合格。
2000年10月、日本科学未来館初代館長。
政府の宇宙開発戦略専門調査会委員も務める。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090620-OYT8T00233.htm
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