2009年7月5日日曜日

理系白書’09:挑戦のとき/12 北海道大電子科学研究所教授・永井健治さん

(毎日 6月23日)

細胞や分子を生きたまま観察し、生命の営みを解明する。
永井さんは、「バイオイメージング」という分野を先導する一人。

東京大大学院博士課程で、神経発生学を学んでいた98年。
研究室の先輩、宮脇敦史博士に留学の相談。
宮脇さんは、緑色蛍光たんぱく質(GFP)の開発で、
08年のノーベル化学賞を受けたロジャー・チェン・カリフォルニア大教授に
師事し、研究を発展させようと考えていた。
「留学より僕のところに来ない?」
迷った末、理化学研究所に新設された宮脇ラボで、ポスドクになった。

GFPは、光を吸収して「励起」と呼ばれる現象を起こし、
安定した状態に戻る時に緑の光を放つ。
GFPを作る遺伝子を組み込むことで、狙った分子や小器官を光らせ、
生きたまま観察できる。
神経発生学を学びながら、「原因(遺伝子)と結果(発現)は
確かめられても、途中に何が起きているのか分からない」という
じれったさを感じていた永井さんにとって、
GFPは謎を解く鍵になると感じた。

理研での6年間、宮脇さんとともに「ペリカン」、「ビーナス」など、
より明るく応用範囲の広い蛍光たんぱく質を開発、
観察対象が広がった。
任期が終わりに近づいたころ、北海道大の公募に応募し採用。
ポスドクから教授への転身。
北大で、最年少の教授。

「流れにさおささない(時流に乗らない)」がモットー。
それが、時にはつらい試練にもなる。

01年、若手を支援する「さきがけ21」の研究員に選ばれた。
テーマは、「光らない蛍光たんぱく質の活用」

普通は「光らなければ無駄」と考えるところを、
「光として放出されないエネルギーで特定の細胞を壊し、
様子を観察してはどうか」と考えた。

挑戦的なテーマ。
「理論的に無理」と断言した大御所もいた。
文献を読むうちに半年が過ぎ、最初の報告会では
成果を報告できなかった。
「翌年の研究費は3分の1に。人生最大のピンチでした」
05年3月までの任期中に、目標は達成できなかったが、
その1年後、ロシアのチームが同じテーマを実現し、
アイデアの正しさは実証された。

北大に来た年、研究所内に産学連携の
「ニコンバイオイメージングセンター」を開設。
最新鋭の顕微鏡6台を備え、全国から研究者が訪れる。
今春には、世界一短い波長の青い光を放つ蛍光たんぱく質
「シリウス」を開発。
「次は世界一長い波長で作ってみせます」と、大きな目を輝かせた。
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◇ながい・たけはる

大阪府生まれ。98年、東京大大学院医学系研究科博士課程修了。
01~05年、科学技術振興機構の「さきがけ21」研究員。05年から現職。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/06/23/20090623ddm016040110000c.html

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