2009年7月11日土曜日

SNS最大手はなぜ完敗したのか?

(日経 2009-06-25)

米国で、SNSの主役が完全交代。
有名タレントやセレブが競って自分のページを持ち、
情報発信に活用するかっこよさを売りに、市場をけん引してきた
「マイスペース」が人気を失い、業界1位の座は「フェースブック」に。

米メディア大手ニューズ・コーポレーションが親会社のマイスペースは、
企業規模、資本規模ともに大幅に小さいフェースブックに完敗。
ニューズ・マイスペース陣営は現在、捲土重来を目指し、
大規模な経営改革に取り組んでいる。

フェースブックが5月、米国のSNS利用者数で、
初めてマイスペースを上回った。
フェースブック利用者数は7028万人、マイスペースは7024万人。
世界市場では、約1年前にフェースブックが利用者数で首位。

1年前、マイスペース利用者が7369万人、フェースブックが3559万人。
マイスペースが約2倍の利用者数で、圧倒的な強さ。
なぜ、その形勢は逆転してしまったのか?

「最近のマイスペースは、イノベーション(技術革新力)が足りなかった」
と、ジェレマイヤ・オウヤン・シニアアナリスト。
フェースブックが矢継ぎ早に新機能を追加する一方、
最近のマイスペースの動きは緩慢。

▽利用者の名前を含んだURL取得の受け付け開始。
▽サイト内で売買される花束やプレゼントなど
バーチャルな商品を購入するための決済サービスを試験的に開始。

これらは、フェースブックが今月に追加した新機能で、
積極的に新しいサービスに取り組んでいる。
マイスペースが、目新しい機能を追加した形跡はない。

SNSの利用者の中核は、10~30代の若者層。
若者層に継続利用してもらうためには、
絶えず新たな機能を追加することが大切。
この努力を怠れば、簡単に利用者離れが起きる。

フェースブックは、「勇み足」が多いことも事実。
2007年末、「ビーコン騒動」が代表例。
フェースブックは、利用者が購入した情報を友人間のネットワークに、
「友人が気に入った商品」として紹介。
ビーコンという新サービスで、友人や家族間の交流を促進するSNSと
商品広告を、効率的に組み合わせたネット広告として注目。

だが、商品購入の情報を公表するか、しないかの選択権が不明確で、
利用者から猛反発を受ける。
マーク・ザッカーバーグCEOが謝罪し、
プライバシーに配慮した変更を加える事態。

ビーコン騒動は、フェースブックに大きな汚点となっていない。
「新しいサービスを提案したら、反発が起きたので、
利用者の意見に耳を傾けて改良しただけ。
最終的に利用者が納得すれば、禍根は残らない」(オウヤン氏)。

利用者からの反発も、イノベーションの「副産物」と考え、
利用者の意見を取り入れる好機に変えれば、
かえって利用者とのきずなは深まる。
ネット社会では、利用者の意見を無視すれば汚点、
反映させれば大きなプラスとなる。

フェースブックは、「ネット民主主義」的なトレンドをつかんでいた。
「フェースブックの画面はさっぱりして、情報が見やすい。
マイスペースの画面は一見ごちゃごちゃ」
アナリスト、デボラ・ウィリアムソン氏は、2つのSNSの違いを分析。

マイスペースは、自己紹介ページの色を自由に変えられたり、
写真や映像などを張り付けやすくしたことから、
「自己表現できる」サイトとして人気。
歌手やアーティストなどが競って利用。

華やかさは、時間とともに「飽き」にもつながりやすい、もろ刃の剣。
友人の誕生日や近況が知りたいだけなのに、
映像がチカチカしたり、音楽が鳴ったりと、利用者は食傷気味に。

派手さで先行したマイスペースが、シンプルなフェースブックに
首位を奪われた構図は、ネット検索市場で1番飾り気のない
サイト画面のグーグルが、他サイトを圧倒した図式に似ている。

マイスペース離れが進んでいるのは、利用者だけではない。
企業広告も減速傾向。
マイスペースは、昨年のSNS市場の広告シェアで約5割、
今年は43%まで落ち込む。
フェースブックは、昨年の18%から20%と増加傾向。
「SNS広告市場で勢いがあるのはフェースブック」(ウィリアムソン氏)。
広告収入でも、フェースブックがマイスペースを追い越す日は近い。

マイスペースは、グーグルとのネット広告の提携関係が、
2010年には契約切れ。
約3年間で最低9億ドルの広告収入を約束する契約も、
SNS市場で「ナンバーワン」称号があったから。
ナンバー2に転落した今、契約更新は危うい。

危機感を募らせたマイスペースは、親会社ニューズ主導の
経営改革を進めている。
「従業員数が肥大化しすぎて、効率的な意思決定の妨げ」
米国の従業員数の約3割削減を発表した、オーウェン・ヴァンナッタCEO。
ニューズ傘下に入り、大企業化してしまった反省のもと、
マイスペースは、新興企業のような
「小さくて、イノベーション重視の企業を目指す」

具体的な内容には、不安な点も多い。
ヴァンナッタ新CEOはフェースブックの元最高執行責任者(COO)、
人員削減後の従業員は約1000人と、フェースブックの約850人と同水準。
マイスペースを、「フェースブック化」しようとしているかのような改革案、
外枠からフェースブックをまねても、イノベーションが戻ってくるわけではない。

「フェースブックは今後、ウェブサイトの運営というより、
インターネット上で人がつながったり、情報を共有したりする
インフラの役割を果たしていく」(ザッカーバーグCEO)。
フェースブックのトップが描く、自社の将来像。

同社は、フェースブック用のIDやパスワードを、他サイトと共有できる
「コネクト」機能を導入、フェースブックをネット上にある他のサイトや
サービスとつなげることに力を入れている。
SNSが、ネットのたくさん存在する機能の1つに移行していく
「ネット社会の将来」を見据えた布石。
マイスペースは、まだこうした新しいビジョンの提示はない。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt090624.html

0 件のコメント: